W杯招致:イングランドの立場から
先日の朝、携帯電話のアラームに続いて私の目を覚ましてくれたのは、「イングランドの2018年W杯開催候補は“負けられない”」というBBCの見出しだった。確かに、このドキドキする言葉を口にしたのはイングランド側ではなく、FIFA視察団の有力者だったら理想的だったが、とにかく視察団を首相官邸で迎えたニック・クレッグ副首相(失言癖のあるデーヴィッド・キャメロン首相はタイミング良く育児休暇で不在だった)がこのように自信を持ってアピールしても不思議はないだろう。クレッグ副首相が言う通り、「国民は大いに興奮し、イングランドのW杯開催候補を熱烈に応援している」他、FIFAのゼップ・ブラッター会長も表面的に褒めて頂いているようである。ブラッター会長曰く、「W杯を開催する一番簡単な方法はイングランドに行くことだ。イングランドにはファンも、スタジアムも、設備もすべてが揃っている」。
日本ではもちろん、総理大臣が音楽ヒットチャートの1位と同じように入れ替わる(つまり、ついていけるのは学生と同業関係者ぐらいしかいない)ので、イギリスのように国際スポーツ大会の開催権が決まっても政治的な意味もあるわけではないだろう。皮肉にも、この傾向はサッカー界にも及び始めているかのように、日本の2022年W杯招致視察が終わって数日後、意見を二分する犬飼基昭氏がJFA会長を退任した。それでも、この国もまだまだ笑顔である。「サッカーの母国」と事有る毎に掲げるイングランドと比べて歴史は浅いものの、明日からでもすぐにW杯を開催できるくらい、インフラやスタジアム、そしていざというときの組織力がすべて備わっていることは、周知である。さらに、最先端テクノロジーや様々な環境保護の取り組みによって、日本だからこそ提供できる「次世代ワールドカップ」も必ず大きなアピールとなるだろう。
また、2022年W杯が日本の単独開催に決定すれば、関東との対立で日本サッカーの歴史が始まったという関西地方にとっても、大きな効果をもたらす。招致条件として開幕戦と決勝戦を開催するスタジアムには8万人収容可能な観客席の設置が求められているが、日本招致委員会は横浜国際総合競技場など首都圏の既存施設を増築するのではなく、大阪市の中心部で「大阪エコ・スタジアム」(仮称)という超現代的なスタジアムを新たに建設する予定を発表している。そのきっかけとして、都市再生緊急整備地域に指定されている梅田貨物駅(通称梅田北ヤード、1928年に開業)がようやく移転し再開発されることになっている。因みに、この敷地は我がマンションから徒歩10分くらいのところにあり、ベランダからも見えるということから、「泊めて欲しいんで後12年は絶対に引っ越さないでよ」という連絡が家族や友人、そしてツイッターでしか会ったことのない方からもしばしば寄せられている。
しかしながら、日本の開催地としての適格性を保証する、最も大きな要素は、最初から今でもFIFA理事会が日本を一蹴すべき理由でもある。約20年前、JFAが日本初のプロサッカーリーグとなるJリーグを設立して2002年W杯開催の立候補を発表した頃、これは「新市場も開拓してW杯を全世界のものにする」というFIFAの当時のビジョンにバッチリ合致していた。しかし、2度目の開催は日本サッカーの輝かしい発展をさらに促進し、経済(特に、大阪エコ・スタジアムやその技術の契約を獲得する企業)を刺激する効果が期待できるとはいえ、世の中に日本よりW杯開催の順番が待ち遠しい国やファンが山ほどあるわけである。イングランドの2006年大会の招致は失敗だらけに終わってしまったが、早くも1974年W杯も開催したドイツに再び決まったことを嘆く人が少なくなかった。今回は日本(若しくは韓国)がわずか20年で2度も開催するというかつてない機会を与えられれば、嫌な波紋はイングランドに止まらず世界中に広がるだろう。
犬飼元会長の後を受けた、FIFA理事でもある小倉純二氏は公にはもちろんアピールするしかないが、心の底では同じ壁を痛感していてもおかしくない。と言いながら、小倉会長自身はとにかく、完全に「Win-Win」な状況にある。もし日本に決まれば小倉会長の成功になる一方、うまくいかない場合でも、前任者が自分のレガシーを考えて動くのが早過ぎたと言い捨てても良い。
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