« 2010年6月 | トップページ | 2010年8月 »

2010年7月

『奇跡のイレブン』のダニエル・ゴードン監督が北朝鮮サッカーを語る

2010/07/29(木)

2010ワールドカップ準決勝第一試合の前日・7月5日、ヨハネスブルグのインディペンデント映画館「The Bioscope」で『奇蹟のイレブン』を観賞させて頂き、同作品のダニエル・ゴードン監督とお話する機会を得た。既にFootball Japan Minutecastでもご紹介しているように、ゴードン監督には北朝鮮サッカー、映画で追った1966W杯の代表メンバーとそのアジアに対する気持ち、そして同監督の新作(テーマが今年のW杯決勝戦の一日)について語って頂いた。

 

 

『奇跡のイレブン』には、朴斗翼(パク・ドゥイク)選手とそのチームメイトが金日成の像の前に立ち、1966年にいわゆる「偉大なる領導者」から頂いた言葉を思い出すシーンがあります。「アフリカ・アジア地域の代表として、1、2勝を挙げてきてくれ。」 この映画の撮影時、選手達から他に日本や韓国、中国など、アジアについて何かお話を聞いたこともありますか?

 

彼らは実際に行ったりした経験があまりないので、異国のことは概念的に話すくらいです。代表戦で何回かマレーシアやタイに行った選手がおり、インドでも試合をしたそうです。そして、キューバでプレーした選手ももちろんいました。しかし、外の世界に関する知識が非常に乏しいです。『ヒョンスンの放課後』という、北朝鮮のマスゲームに参加した2人の少女を負った作品も撮りましたが、あの女の子にアメリカについて聞いてみました。その答えは、「アメリカって何?」と。アメリカはただの概念のようで、地図上のどこにあるか分かっていません。机の上に地球儀が置いてありましたが、綺麗な飾り物だから市場で買ったそうです。

 

日本生まれの在日北朝鮮人の場合でも、日本にある朝鮮学校で育ち、偉大なる領導者の偉業について勉強しますね。我が社は北朝鮮で合わせて3つの映画作品を撮り、その販売権を日本の映画会社にもかなり高い金額で売ることができましたが、第3作の『クロッシング・ザ・ライン』が日本ではまだ一切公開していません。何故なら、内容が日本にしては際ど過ぎるからだと言います。この映画会社が『奇跡のイレブン』を公開したときには、同社の映画館をボイコットするぞというクレームが殺到しました。『ヒョンスンの放課後』も同じような騒ぎになったらまずいので、日本のテレビ局に公開権(とクレームの負担!)を転売することになりました。因みに、この映画会社の社長は自らが在日北朝鮮人なので、身近な問題でもありました。何かネガティブなことがあれば、会社の営業に影響が大変だったからです。

 

第3作の『クロッシング・ザ・ライン』は、1960年代に4人のアメリカ人が米軍から脱走して北朝鮮に亡命し、「米国の悪者」役でプロパガンダ映画にも主演した話のドキュメンタリーですが、これを在日北朝鮮人の社長に見せたとき、「このプロパガンダ映画大好き!子供のときに何回も見たからすごく懐かしい!」と笑いました。本当はすごく演技過剰で、とんでもないプロパガンダですが、社長はやはり場所が日本とは言え、朝鮮学校に通うと、そのような環境で育つわけだと言いました。個人的に、私は北朝鮮に巡礼する在日北朝鮮人たちを観察したこともありますが、彼らはもちろん一般の北朝鮮人とは見た目が全く違うと言いながら、一方で日本では、一般の日本人とは違うとも感じるでしょうね。

 

今年の北朝鮮代表のW杯メンバーの中にも、お馴染みの鄭大世安英学という、日本生まれ日本育ちの在日北朝鮮人が2人いました。鄭大世は特に、朝鮮学校で育ち、北朝鮮に対して愛国心が強いようですが、それと同時に日本の音楽を普通に聞いたり、ハマーを運転したり、日本のテレビ番組に出て(当時所属の川崎フロンターレ)チームメイトと笑ったりします。欧米人にとって、興味深い選手でしょうね。

 

そうですね。今は鄭大世と言えば、W杯の国歌に号泣した北朝鮮代表選手として世界中に知られています。彼もやはり日本生まれ日本育ちとは言え、完全に北朝鮮のシステムで育ったのですね。

 

あるとき、「北朝鮮に住む機会があれば、実際に行くのか?」と友人に聞かれましたが、鄭大世は「う~んと…」と声が小さくなったそうです。日本では豊かな生活ができているので、難しい葛藤でしょうね。

 

私は北京駐在の北朝鮮外交官の知り合いがいますが、彼らもやはり同じ気持ちです。もちろん、サッカー選手のようにお金持ちではなく、真に自由とは言えないでしょうが、とにかく平壌と比べては自由な生活ができるからです。しかし、彼らにとっても、イギリスにお越しになって案内をさせて頂いた1966年のW杯代表メンバーにとっても、北朝鮮がやはりホームだ、という気持ちもまだ強いです。私は以前、脱北者の知り合いに平壌の写真を見せてみたことがあります。北朝鮮の政府やシステムがあまりにも嫌で脱出までした彼ですが、平壌の写真を見たり、私も馴染みの店や道のことを話したりすると、涙が出ました。今でも平壌が故郷という気持ちが相変わらず強く、感動するのです。

 

さて、今回南アフリカで撮影中の作品ですが、内容は決勝戦の日のみでしょうか?

 

その通りです。当日の準備なども撮影しますが、準決勝やそれまでの試合映像を使うつもりはありません。チームの他、スタジアムの準備などもポイントなので、地元の面白い関係者にインタビューしたりもしたいと思います。実は今日、スタジアム建設の成功の見返りに決勝戦チケットをもらった、建設作業員をやっと見つけ出したところです。

 

W杯決勝戦の1日に焦点を合わせる、舞台裏のドキュメンタリーなのですが、やはり準決勝が終わるまで出場チームが決まらないため、選手やコーチ陣にどこまでご協力を頂けるかはまだ分かりません。しかし、FIFAの大物には既にインタビューのお願いをしておきましたから、決勝戦が彼らにとって何を意味するのかについて話して頂くことになっています。そして、デズモンド・ツツ大主教とのインタビューもほぼ決定的ですし、それをはじめとして、南アフリカやアフリカ全体を代表する人物をできるだけ1日追ってみたいと思います。さらに、ネルソン・マンデラ元大統領についても何とかなる可能性はありますが、それも正直、2分前にならないと分からないでしょう。とにかく、小さなアイデアがたくさんあります。審判陣の決勝戦のストーリーも語れるように、そのご協力を頂くことになっています。

 

ゼップ・ブラッター会長のストーリーは?

 

頑張っています!

 

 

* このインタビューを行った数日後、鄭大世は川崎フロンターレからブンデスリーガ2部のVfLボーフムに移籍し、Jリーグを去ることが明らかになった。

 

このインタビューの機会を用意して頂いた、「The Bioscope」映画館のダリル・エルス氏とラッセル・グラント氏に感謝の意を表したいと思います。誠にありがとうございました。これからのご活躍をお祈りしております。

固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


南アフリカ人と「アフリカ」のアイデンティティー

2010/07/22(木)

今月、ヨハネスブルグで南アフリカサッカーの現況を調べている、英・エジンバラ大学の博士研究者、マーク・フレッチャー氏にインタビューを行った。W杯の影響によって南アフリカがどのように変わってきたか、そして地元の人々が準々決勝(対ウルグアイ)でガーナを応援していた理由をフレッチャー氏に教えて頂いた。(このインタビューの音声はFootball Japan Minutecastにてお聴き頂けます。

 

 

昨年にもおしましたが、そのときは治安やスタジアムの準備などについて、南アフリカに対する欧米日のステレオタイプが大きなネタでした。しかし、毎日のように載っていた批判的な記事が今となって、新聞から姿を消しているようです。

 

そうですね、殆どなくなっていますね。あのときはとにかく、イギリスの報道は何より勉強不足だったと思います。記者が一度も南アフリカに来ずに、勝手に変なことを書いていたケースも多かったようです。しかし、今年は本大会ということで実際に南アフリカに来てもらい、特にサッカー・シティのような驚くべき、世界で通用する施設を目の当たりにすることができました。そして、広く懸念されていた犯罪の多発や、例えば英国紙のデイリー・スターが大げさに予測していた「大量殺人」もやはり実現していませんね。あのような記事は完全に現実から乖離していました。もちろん、W杯が開幕してから犯罪事件が1件も起きていないわけでもありませんが、それは決してヨハネスブルク特有の問題ではなく、むしろ開催地がどこであっても同じでしょう。ロンドンであれ東京であれ、多少の犯罪は当然あるからです。

 

フレッチャー氏は1年ほどイギリスに帰国し、そしてW杯の前にヨハネスブルクに戻ったのですが、街のどんなところが変わったのでしょうか?

 

まずは、主要な観光スポットが新しく塗装し直され、綺麗になりました!しかし、皮肉はさておき、インフラの面でも大きな変化がもちろんありました。中でも道路工事が終わり、スタジアムも全て完成しています。そして、街の報告看板なども非常にカラフルになって、W杯開催を喜んでいる感じが強いです。さらに、これはヨハネスブルクという街自体に止まらず、人々も変わったと思います。今までにこれほど多くの人が南アフリカ代表、バファナバファナのユニフォームを着ているのを見たことはありません。どこに行っても国旗が飾られています。昨年のコンフェデレーションズカップのときにはこのようなシーンを殆ど見かけませんでした。

 

研究の一環として、W杯のパブリックビューイングやスタジアムで地元のサポーターと色々と話しているそうですが、この大会は南アフリカ人にとってどうだったでしょうか?バファナバファナのグループリーグ敗退によって何か影響はありましたか?

 

バファナバファナの敗退はブブゼラの勢いに影響があったかもしれませんね。W杯直前、特に開幕日の朝には、早朝5時からブブゼラを吹いていた人もいました。本当に止まらなかったのです。今は何も聞こえませんが、敗退前はこのオフィスでも外のブブゼラの音が響いていました。しかし、バファナバファナの結果にもかかわらず、一般の南アフリカ人はW杯開催の体験をものすごく楽しめていると思います。試合の観客席の過半数が南アフリカ人ですし。私が生観戦したパラグアイ対日本の試合には、実際にパラグアイと日本からお越しのサポーターが少なかったですが、その代わりに地元の人たちが両国の国旗を掲げたり、応援服を着たり、思い切って盛り上がっていました。このW杯というパーティーが終わってしまい、皆が逆に意気消沈すればどうなるでしょうかね。

 

最後に、ベスト8では地元の南アフリカ人が最後のアフリカ代表として、満場一致で必ずガーナを応援していたようでしたね。

 

大まかに言えばそうでしたね。アフリカのサッカーはやはり、結構ユニークです。例えば、エジプトがデンマークと対戦することになれば、アンゴラのサッカーファンも大陸の反対側とはいえ、同じアフリカということでほぼ必ずエジプトを応援します。これは欧州やアジア、北米などではなかなか想像できないことですね。世界の他の地域とは違い、アフリカには不思議で独特な地域アイデンティティーが強く存在するからです。イングランド人は同じヨーロッパだからといって、必ずイタリアをアルゼンチンより応援するわけではありません。この「アフリカ」というアイデンティティーが何故生まれるかはまだはっきり分かりませんが、私の意見では、植民地時代や宗主国との闘いの名残、或いは結果だと思います。アフリカの各国が独立を果たしてから、それぞれの国民性とともにアフリカのアイデンティティーもサッカーを通じて強めようとしたのです。

固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


Minutecast:南アフリカ・ヨハネスブルグの特別シリーズ④ カイザー・チーフスのファンクラブ地域会長、ナイロン・ンファヒレレ氏にインタビュー

2010/07/13(火)

この度、2010ワールドカップの開催地、南アフリカ・ヨハネスブルグでFootball Japan Minutecastの特別シリーズを作成することになりました。

 

本日の4回目では、カイザー・チーフスのファンクラブのグレーター・ヨハネスブルク地域会長、ナイロン・ンファヒレレ氏にインタビューを行いました。ンファヒレレ氏は母国でワールドカップを観た体験、海外からやってきたサポーターに売ろうとした南アフリカ料理、そしてワールドカップによって同国のプレミアサッカーリーグがどう変わっていくかについて話して下さいました。

是非お聴き下さい!

 

番組はこちら:http://minutecast.footballjapan.jp/article/156180887.html

iTunesにてご購読頂けます。

固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


Minutecast:南アフリカ・ヨハネスブルグの特別シリーズ③ 『奇蹟のイレブン』のダニエル・ゴードン監督が北朝鮮サッカーを語る

2010/07/12(月)

この度、2010ワールドカップの開催地、南アフリカ・ヨハネスブルグでFootball Japan Minutecastの特別シリーズを作成することになりました。

 

本日の3回目では、ヨハネスブルグのインディペンデント映画館、「The Bioscope」で『奇蹟のイレブン』を観賞させて頂いた後、ダニエル・ゴードン監督が北朝鮮サッカー、選手のアジアに対する気持ち、そして同監督の新作(テーマが昨日の2010ワールドカップ決勝戦)などについて語って頂きました。

是非お聴き下さい!

 

番組はこちら:http://minutecast.footballjapan.jp/article/156158030.html

iTunesにてご購読頂けます。

 

この番組をベースに、7月下旬~8月上旬にこのページにて記事も公開する予定です。(英語版もあります。

固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


Minutecast:南アフリカ・ヨハネスブルグの特別シリーズ② ウルグアイ×ガーナ(準々決勝、サッカー・シティ)

2010/07/03(土)

この度、2010ワールドカップの開催地、南アフリカ・ヨハネスブルグでFootball Japan Minutecastの特別シリーズを作成することになりました。

 

本日の2回目では、昨日のW杯ベスト8、ウルグアイ対ガーナで収録したコメントを紹介します。観客の9割ぐらいがアフリカ代表のガーナを応援していた中、FWアサモア・ギャンが延長戦ロスタイムの最後の最後に何とPKを外し、ウルグアイが結局PK戦で勝利を収めました。

是非お聴き下さい!

 

番組はこちら:http://minutecast.footballjapan.jp/article/155517192.html

iTunesにてご購読頂けます。

 

この番組をベースに、7月下旬~8月上旬にこのページにて記事も公開する予定です。(英語版もあります。

固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


Minutecast:南アフリカ・ヨハネスブルグの特別シリーズ① 南アフリカ人と「アフリカ」のアイデンティティ

2010/07/02(金)

この度、2010ワールドカップの開催地、南アフリカ・ヨハネスブルグでFootball Japan Minutecastの特別シリーズを作成することになりました。

 

本日の1回目では、ヨハネスブルグで南アフリカサッカーの現況を調べている、英・エジンバラ大学の博士研究者、マーク・フレッチャー氏にインタビューを行いました。フレッチャー氏はW杯の影響によって南アフリカがどのように変わってきたか、そして現地の人々が本日の準々決勝(対ウルグアイ)でガーナを応援する理由を教えて下さいました。

是非お聴き下さい!

 

番組はこちら:http://minutecast.footballjapan.jp/article/155237437.html

iTunesにてご購読頂けます。

 

この番組をベースに、7月下旬~8月上旬にこのページにて記事も公開する予定です。(英語版もあります。

固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


« 2010年6月 | トップページ | 2010年8月 »