「うわっ!外人だ!」
6日のJリーグ開幕戦で、一人のサポーターを驚かせてしまった。私の顔と体の見た目はそんなに恐くない(と私は思っている)が、この40歳前後のおばさんはとにかく、アングロサクソンの顔立ちと白い肌に慣れていなかったようである。外国人として、このような気まずいハプニングはいわゆるグローバル化が進む中で、ちょっと時代遅れのように感じるが、一方で日本は依然として人種的に極めて同質な社会なので、このおばさんの反応が理解できないこともない。分からないもの、知らないものを恐れることはやはり、生身の人間らしい。
その数日後、2006年9月以来の大阪ダービーが近づいていたところ、ガンバ大阪のフロントもその人間性を見せた。しかし、今回は残念ながら何が分からなかったか、何が怖かったかと言えば、単純な皮肉および、ガンバが本業とするサッカーの文化と社会学ということだった。下記は、3月9日にガンバ大阪のオフィシャルホームページに掲載された、ニュースリリースからの抜粋である。
【警告】誹謗中傷するバナー掲出、応援チャントについて
3月6日(土)名古屋グランパス戦@万博において、キックオフ前の時間帯に、Aホーム席中央付近に相手チームを誹謗中傷するバナーが掲出されました。また特定のチームを誹謗中傷する応援コールが今季の試合、ガンバ応援席にて行われました。
(中略)
ガンバ大阪を応援するエリアにて、ガンバ大阪の判断に反する行為を行った人物・団体に関しては即座に退場、永久入場禁止とする厳しい処分にて対応することをお知らせ致します。
反する行為とは誹謗中傷、侮辱、幼稚な言い回し、屈辱的な言葉を使った応援チャントを実行、横断幕の掲出が主なものと考えられますが、行為の対象はこれに限りません。クラブが反する行為と判断したものすべてが対象です。
4年ぶりの「大阪ダービー」を目前に控え、サポーターの皆さんの盛り上がりを強く感じます。しかし相手クラブや選手を侮辱する等の行為は決して、ガンバ大阪、そして選手の為とは感じませんし、「大阪ダービー」の価値を高めるものでもありません。
実際、これまでの歴史の中でガンバ大阪応援エリアで起こった情けない行為、目を覆いたくなるような横断幕の文字には、選手・スタッフ、そして他のガンバファン&サポーターの皆さんは、同じガンバ大阪に関わるものとして恥ずかしいという想いしか残っておりません。
ここでいう、目を覆いたくなるような横断幕の的は、ガンバのライバルである浦和レッズで昨年まで6年間プレーした、田中マルクス闘莉王だった。「トゥーリオ・リコール」という文字と、単語の間にトヨタ自動車のロゴマークが描かれたそのメッセージは、闘莉王が「レッズが自分を必要としていない」とやむを得ずチームを退団し、名古屋グランパスに移籍したことをからかうジョークだった。グランパスのメインスポンサーはもちろん、アクセルペダルなどに不具合がある数百万台の車をリコールしている、トヨタ自動車である。確かに、このバナーで闘莉王を温かく歓迎する気持ちはあまりなかっただろうが、特にユーモアが名物の大阪には、この皮肉たっぷりの冗談が分からない人がいたならば、それこそがおかしい。
また、この特定の相手に対する応援コールは何かと言えば、ここ10年間、あらゆる大阪ダービーで反対の声もなく歌われてきた、セレッソ大阪を笑い物にする歌である。その歌詞は下記の通りである。
ラララ…
ピンク色の豚野郎が睨んでる
言わしてまえ!
セレッソメルダ!
これももちろん、ものすごくフレンドリーなコールとは言えないだろうが、世界中のどこのサッカースタジアムでも、これと同じように相手や地元ライバルをからかう応援歌が頻繁に聞かれる。サッカーファンの応援コールが本当に名誉棄損に値する内容や、実際に乱暴騒ぎを起こそうとする歌詞を含む場合は別の話であるが、「セレッソメルダ」にはそのようなニュアンスがない。比較として、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターはガイ・フォークス・ナイトの前後に「かがり火を焚き、リバプールとシティを焼き捨てよう」と歌えば、警察や消防隊を呼ぶ人は誰もいない。
保守的な日本人は「日本では通じない」文化の違いを指摘するかもしれないが、日本はグローバルなスポーツであるサッカーとその文化を輸入している中、ダービーのからかい合う習慣も徐々にJリーグにも浸透するのは当然である。2003年に来日した頃、ガンバサポーターで無数のヨーロッパ人や中南米人、アフリカ人と同様に熱狂的な人もいて、その「日本人らしくない」姿を見た私も最初はびっくりした。しかし、フロントは認めないだろうが、この応援団の情熱とユーモアが私のような外国人に限らず、ほかの日本人にもアピールして次の試合もチケットを買うきっかけとなることが少なくない。
今回のニュースリリースに関しては、一番許しがたいのはそのタイミングである。フロントのサッカーに対する理解度はともかくとして、スタンドの雰囲気を醸し出す応援団の反対と、その反対がわずか5日で衰えないことくらいは予想できていただろう。結果的に、サポーターの盛り上がりがまた別のテンションへと変わり、試合の流れがうまくいかなかったときは明らかにイライラとした雰囲気になってしまった。この特別なはずだったセレッソ戦はガンバにとって期待外れの引き分けで終了し、選手たちは大ブーイングを浴びた。ガンバファンの抗議や不満はこれからも続くだろう。つまり、ホームページの「警告」はゴール裏のどの応援歌や横断幕よりも、遥かに挑発的な言葉だった。
これまで、Jリーグの最も大きな成功の一つは、各クラブがそれぞれのコミュニティに根付き、地元社会に貢献する必要性を認めたことである。鹿島アントラーズや浦和レッズはこの代表的な例をして、タイトルを重ねながらピッチ外でも力を入れ、それぞれのホームタウンを中心に圧倒的な人気を集めてきた。にもかかわらず、一方でJリーグ発足時の企業チームからそれほど進化していないケースも存在する。もしサポーターによる暴力行為などがあった場合には、厳しい処分は当然なことである。しかし、ガンバのフロントは典型的なサラリーマンの考え方から離れず、親会社の社歌意外の歌を聞けばすぐパニックする限りは、クラブの成長は有り得ない。
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