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2009年11月

解説者の呪い

2009/11/18(水)

日本の地上や衛星テレビで海外や代表サッカーを語る解説者の方々へ、ちょっとお願いがある。

 

まだまだイギリスほどではないかもしれないが、今や日本でもサッカー中継番組のラインアップが結構幅広くなっている。去る土曜日には岡田ジャパン南アフリカの対戦の前後、ニュージーランドバーレーンイングランドブラジルの2試合を見ることもでき、もし興奮(それとも不眠症)で眠れなかったなら、深夜にまた注目の一戦、ビセンテ・デル・ボスケのスペインディエゴ・マラドーナアルゼンチンも生中継だった。これはもちろん良いことであるし、毎週末はいつものJと(イギリス国内では生放送が禁止されている、現地3時キックオフの試合でも)プレミアのみならず、ブンデスリーガやセリエA、ラ・リーガの注目カードも観られることも、とても有り難い。しかし、この数ある試合にそれぞれ解説者を派遣することには、ヒト・カネ(・プレスパス?)の関係で無理があるだろうが、あまりに現場から離れていることをもう少し目立たなくしてくれれば良いのにと、私はよく思う。

 

やがてこれに飽きてしまい、最近は現地の言葉を理解できるかどうかにかかわらず、副音声がある場合はテレビが必ず外国語に切り替えるようにしている次第である。例えば、私のイタリア語力は「campionato di calcio italiano」という、中学生頃のセリエAハイライト番組のイントロから一セリフに過ぎないが、昨シーズン、インテルマンチェスター・ユナイテッドのチャンピオンズリーグ戦はSKYイタリアの興奮しやすい解説で楽しく観戦した。解説者の仰っていたことは確かに、さっぱり分からなかったが、サン・シーロの中から、その気持ちと熱意が良く伝わった。日本の解説者も頑張っていたと思うが、やはり比べてしまえば、東京のスタジオから送られたその声はスタイルにも内容にも欠け、2人の男が普通にリビングのソファーで喋っているように聞こえた。こういうシーンになると、(イギリスのシチュエーション・コメディは除くとしても)面白さがなかなかソファーに座っている人にしか伝わらない。

 

普段はラ・リーガを中心に実に素晴らしいサッカー番組を提供してくれている、WOWOWでも地理的に遠距離になるにつれて無知なところが現れてしまうこともあるようである。先日、イングランド戦で解説を務めていた方はまず、ウェイン・ルーニーがキャプテンマークをつけていたことに驚いた(ここここここ、そして日本語が良いならここなど、このニュースは前日に調べてみれば広く報道されていた)が、その数分後、両チームの選手が頭を下げ、センターサークルで2列で並んでいたところ、逆に視聴者のほうが驚くべきハプニングがあった。解説の方は最初、何が起こっているか分からなかったのが惜しかったが、「あ、黙祷が行われるようです」とようやく気がつき、審判の笛が鳴った後も、誰のためかという疑問を口にしてしまったのが本当に残念だった。

 

まあ、誰だってちゃんと準備していないときもあるだろう。実際にその場にいなければ、最新速報もひらめきも簡単には手に入れられないことは、良く分かっている。そして、ドイツ代表GKロベルト・エンケの悲劇が10日から世界中のスポーツニュースで大きく扱われていたが、黙祷のときにはピンと来なくても、それは生放送のプレッシャーかもしれないのでしょうがない。ところが、万が一何も分からなくても、お願いだから話術で隠して下さい。完全な演技になっても、そのスキルのほうが無知より、われわれ視聴者にアピールするだろう。

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罪と罰

2009/11/11(水)

先週から遡ってちょうど10年前、高校生だった私は大学受験に向けて1週間東京を旅行し、日本を初めて味わった。しかし、秋葉原の電気街や新宿の華やかさ、浅草の浅草寺といった文化財に一目惚れだった一方、これはもちろん氷山の一角に過ぎなかった。来日する外国人の多くは、出張などで首都圏ぐらいしか体験しないだろうが、本当に興味のある人は少なくとも、せっかく日本まで来るなら京都にも行き、清水寺や金閣寺も一度見たいと思っているはず。交通手段はもちろん、日本を代表する東海道新幹線が理想的で、北向き窓側の席(つまり、座席番号が「A」ではなくて「E」)だと富士山を眺めることもできる。また、自分の撮った写真が家族に送る葉書にマッチするためにも、来日するタイミングをできるだけ桜の季節に合わせれば、ベストであろう。

 

しかも、もう少し観察マニア、いわゆるコンプリーティストの方は「さすがニッポン!」と言わせる、是非見逃せない場面も様々あるだろう。例えば、何らかのスキャンダルや愚行に巻き込まれた男の人が背広で並び、お詫びの意を込めて45度(かそれ以上)のお辞儀をするシーン。一般的には確かに、サッカースタジアムがこれを観察するのに適したスポットとは言えないが、去る8日にJ1首位の川崎フロンターレは試合前に、武田社長以下、関塚監督、選手、スタッフ全員が同じ灰色のスーツ姿でスタジアムを一周し、4箇所で整列して謝罪した。もし等々力のスタンドにコンプリーティストの方もたまたまいたならば、大喜びだっただろう。

 

このお詫びの理由はもちろん、3日のヤマザキナビスコカップ決勝戦の出来事だった。FC東京に敗れ、準優勝は(リーグも合わせて)5回目だったのに優勝はまだ1回も出来ていないフロンターレは、試合後の反応が非紳士的とされた。日本サッカー協会の犬飼会長は「その場で見なくて良かったと思うくらい。サッカー界の恥…賞金を返せと言いたいくらい」と、怒りの言葉を吐いた。それに対して、武田社長は自主処分として準優勝の賞金(何と5千万円の巨額)を返上し、全選手に反省文を提出させることにした。この選手たちの犯した罪は具体的に何かと問われれば(ショックに弱い方は読まないほうが良いが)、この悲痛な敗北に笑えず顔をしかめたこと、DF森勇介が表彰台でガムを噛んでいたこと(森は出場停止処分も受けた)、そしてサッカーピッチ見たことない場面に、何人かが準優勝メダルを外したこと。

 

公の場でお尻をぴしゃりと叩くような懲戒だったが、選手にどのような精神的影響を与えたのだろうか。フロンターレはその前節に好調のサンフレッチェ広島7対0で圧倒したが、8日にはお辞儀を終え、スーツを普通のユニフォームに着替えてから、失点がJ1で3番多く降格がほぼ決定的だったジェフユナイテッド千葉を相手に苦戦した。鹿島アントラーズとの勝ち点差がわずか1、テンションの高いラスト1ヶ月を迎える中、川崎ファンはナビスコの態度を見て、「選手はこんなに負けるのが嫌いだったら、今度リーグ戦では絶対頑張ってくれる」と前向きな徴候と考えてもおかしくなかった。しかし、懲戒と大騒ぎが続き、気持ちを切り替える余裕がなかった。結局、ジェフ戦ではレナチーニョのハットトリックと、ジェフも勝利しなければならなかったことに助けられた。

 

プロ選手は子供たちに良い手本を示す責任があるというアプローチは確かに褒めるべきだろう(欧州では近年、この責任を少しずつ忘れてきたという声がある)。とは言え、協会とJリーグの力は川崎の「無礼」よりもう少し大したこと、もう少し21世紀らしいことに入れれば良いのではないか、という思いを拭い去れない。この20年で日本サッカーを見事に発展させてきた協会であるが、もしかすれば、日本のいろいろな大組織と同じように近代化する必要があるかもしれない。それとも、その日に犬飼会長は単に機嫌が悪かっただけだったのか。或いは、犬飼は浦和レッズ社長の時代、2004ナビスコカップ決勝戦FC惜敗後、表彰台ガム選手メダルことを思い出していたのだろうか。会長、申し訳ありませんが、このコンプリーティストは良く観察しました。

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