【インタビュー】W杯に向けて南アフリカの現況: ③雰囲気
岡田ジャパンはすでにどこよりも早く、W杯出場権を手に入れているが、来年の開催地、南アフリカは多くのファンや記者、選手にとってまだまだ未知の世界である。そこで私は、先月まで19ヶ月、ヨハネスブルグで南アフリカサッカーの現況を調べてきた、英・エジンバラ大学の博士研究者、マーク・フレッチャー氏にインタビューを行った。3回シリーズの3回目では、フレッチャー氏がW杯開催に向けて現地の雰囲気について語る。
治安や準備の議論はやはり、来年の本大会を見てみないと終わらないでしょうが、現地の一般的な人々やサッカーファンのムードはどうでしょうか?世間の心配に飽きていますか?それとも、世界の大パーティーを開催するのが楽しみでしょうがない感じですか?
日によって違います!いや、本当ですよ。コンフェデレーションズカップが終わったあとには、国内リーグ戦に行っても、ヨハネスブルグのタウンシップ、或いは北部の高級地区に行っても、多くの人がかなり喜んでいました。大きな事件などはなく、大会自体が結構うまくいきましたし、FIFA側も褒めてくれましたし、バファナバファナ(南アフリカ代表チーム)も何と4位に入賞しました。最高の幸福感というと言い過ぎですが、人々はとにかく嬉しかったです。しかし、別のときに聞いてみると、南アフリカのサッカーは性根が腐って、てんでんバラバラになっているので、全世界の規模で同じ失敗をしてしまえば恥ずかし過ぎる、という声もありました。
今の研究に着手した頃、こういった視点は人種によって異なると思っていました。つまり、白人に聞けば「きっと大失敗」、黒人に聞けば「南アフリカの魅力を世界に届ける、素晴らしいW杯になる」という傾向を予想していました。しかし、そう簡単ではありません。ある日、プレトリアでスーパースポーツ・ユナイテッド対カイザー・チーフスの試合に行きましたが、黒人のチーフスファンは現地の警察と喧嘩になりました。プレトリアはアフリカーナ民族主義の牙城で、この黒人たちによると、警官の扱いは差別的だったそうです。そのあと、皆はW杯についても悲観的になり、同じような人種差別があれば南アフリカ人としてすごく恥ずかしい、と言っていました。一方、多くの白人はコンフェデレーションズカップの成功を見て、逆にかなり楽観的になっています。ですから、全体的には何を考えれば良いか良く分からないという、ちょっと複雑な雰囲気です。もちろん、ほとんどの南アフリカ人はW杯の成功を祈っていますし、すべてがうまくいけば必ず大成功に終わると思っています。
しかし、それと同時に、南アフリカと南アフリカ人に対する欧米のステレオタイプにはやはり飽きていますね。話は変わりますが、先日のベルリン世界陸上、女子800mで優勝したカスター・セメーニャ選手のケースも同じことでした。イギリスの新聞を読むと、「アイツ、女か?男か?分からないね!南アフリカの怪しいところから来たし…」というように書いています。一方、南アフリカの新聞では、この選手の性別が疑われているというのは本人だけではなく、南アフリカ全国が侮辱されているんだ、という雰囲気です。前回にも言いましたが、このケースも新植民地主義臭いですし、南アフリカにいたイギリス人として、このような報道がすごく恥ずかしかったです。
さて、フレッチャー氏自身は楽しみにされていますか?
オーイェス!正直、見事な大会に終わると思います。様々な変化が確かに必要だったかもしれませんが、ヨハネスブルグはすでに変貌しつつあり、全国が動いています。今の努力や取り組みの結果が早く見たいです。これまで見たこともないようなW杯になると思います。
今回は初めての「アフリカのW杯」ですが、実は独特の「南アフリカ的」な要素もあり、より広い意味で「アフリカ的」な要素もあります。例えば、コンフェデレーションズカップで話題となったヴヴゼーラは特に「南アフリカ的」なもので、話してしまうともう1つの3回シリーズになります。しかし、1つだけ気になるのは、FIFAや南アフリカの政府、組織委員会は「すべての南アフリカ人とアフリカ人のためのW杯」と掲げながら、観客の半分以上は西ヨーロッパ人になりそうです。つまり、アフリカ人ではなく、先進国のお金持ち、ということです。
FIFAのゲストもそうですしね…
そうですね。普通はFIFAを弁護しようと思いませんが、各試合に多少、南アフリカ人限定の特別割引チケットも販売しています。ですから、より貧しい人々でもその場でW杯を楽しめるチャンスがあります。しかし、私の見たところでは、実際にこの特別割引チケットを買っているのは貧しい人々ではなく、私やベンより遥かにお金持ちの南アフリカ人です。それはちょっと心配ですが、全体的に、本当に素晴らしい大会を期待しています。
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