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2009年9月

先入観

2009/09/17(木)

先月、南アフリカサッカーの現況を調べてきた博士研究者、マーク・フレッチャー氏にインタビューを行ってから、さらに5ヶ国(ブラジルガーナイングランドスペインパラグアイ)の代表チームがW杯出場権を獲得している。この出場国のリストがどんどん増えてくるにつれ、南アフリカの治安や施設といった課題に世界の注目が今までよりも集まってくるに違いない。しかし、フレッチャー氏が何回も強調したように、南アフリカの国民とW杯組織委員会にとって最も高いハードルはこういった課題ではなく、やはり自国とアフリカ全体に対する世間のイメージを変えることだろう。

 

このインタビューが終わってから、私とフレッチャー氏の話が少し脱線し、海外に住むイギリス人としてお互いの経験話をオフレコで交換した。特に、外国生活を送ることで、母国のことを改めて見直したり、ホームとなった2ヶ国の長所短所を敏感に感じたりする、ということを話し合ったが、私の場合は日本に来て5年半経ても、確かによく感じることである。先週の金曜日、オランダ人の友達とバーに入ろうとしたとき、明らかに空いていたのに「もう満席だ」と入店を断られてしまい、簡単に「外人禁止」と言われたも同然である。しかし、その翌日には、ガンバと大阪が大好きになったきっかけの、最初から温かく迎えてくれたガンバサポーターと一緒に関西ダービーを楽しむことができた。また、イギリスに対する日本人の間違った認識に驚くこともある一方、一昨日、BBCラジオ・ポッドキャストに出たゲストが日本人の気持ち悪い真似をしたときなど、イギリスの無知に腹が立つこともある。

 

フレッチャー氏がこういった「間違った認識」の例として取り上げた、世界陸上のカスター・セメーニャ選手の性別検査は先日、再びニュースになった。私が見たところ、欧米の報道は全体的に十分公平だったと思うが、この非常にセンシティブでプライベートな問題が(800m決勝戦の日にも、ベルリン大会の後にも)何故か公になってしまったことは、国際陸上競技連盟(IAAF)が考慮に欠け、反省すべきだろう。それでも、ここでは南アフリカ側が主張するような人種差別はなかっただろう。世の中のスポーツ運営組織の無能は、人種や国籍を問わない。

 

しかし、英語のことわざにもある通り、被害妄想だからといって、実際に自分を狙っている人がいないとは限らない。世界のマスコミにはもちろん、リスクがあれば国民に知らせる義務があるだろうが、W杯開催については確かに最初から悲観的な報道ばかりで、南アフリカ側がイライラしていても当然である。世間が開催地の失敗を待っているという雰囲気は昨年、北京オリンピックの前にも現れた(AFCアジアカップ2004中国大会の反日運動の影響もあっただろうが、日本ではよく感じた)が、そのときは最終的に見事なオリンピックに終わった。世界のグローバル化が進む中、南アフリカであれ、ユーロ2012ポーランドウクライナであれ、2014年のブラジルであれ、サッカーをはじめスポーツを通じて様々な文化に触れる機会は恐れるのではなく、むしろ享受すべきだろう。

 

インタビューのパート①フレッチャー氏が言った通り、いわゆるリスクに過剰反応せずに、W杯をひたすら楽しむしかないことである。まだまだ解決しなければならない課題もあり、2002年の日本と韓国ほど極端に安全で手際の良い開催地ではないかもしれないが、戦闘地域というわけでもない。南アフリカは毎年およそ1千万人の観光客を歓迎し、すでにラグビーとクリケットのワールドカップ開催歴を誇る。皮肉にも、今年のインディアン・プレミアリーグは安全のため、開催地が突然インドから南アフリカに変わることになったが、大成功に終わった。しかも、W杯のために警官も通常よりたくさん配置され、ほかに様々な安全対策も強化されるので、南アフリカに行きたいのなら、来年こそ安心して行けるはずである。多少、気をつけなければならないところもあるかもしれないが、これは普通の海外旅行に行っても同じだろう。

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【インタビュー】W杯に向けて南アフリカの現況: ③雰囲気

2009/09/07(月)

岡田ジャパンはすでにどこよりも早く、W杯出場権を手に入れているが、来年の開催地、南アフリカは多くのファンや記者、選手にとってまだまだ未知の世界である。そこで私は、先月まで19ヶ月、ヨハネスブルグで南アフリカサッカーの現況を調べてきた、英・エジンバラ大学の博士研究者、マーク・フレッチャー氏にインタビューを行った。3回シリーズの3回目では、フレッチャー氏がW杯開催に向けて現地の雰囲気について語る。

 

1回目はこちら

2回目はこちら

 

治安や準備の議論はやはり、来年の本大会を見てみないと終わらないでしょうが、現地の一般的な人々やサッカーファンのムードはどうでしょうか?世間の心配に飽きていますか?それとも、世界の大パーティーを開催するのが楽しみでしょうがない感じですか?

 

日によって違います!いや、本当ですよ。コンフェデレーションズカップが終わったあとには、国内リーグ戦に行っても、ヨハネスブルグのタウンシップ、或いは北部の高級地区に行っても、多くの人がかなり喜んでいました。大きな事件などはなく、大会自体が結構うまくいきましたし、FIFA側も褒めてくれましたし、バファナバファナ(南アフリカ代表チーム)も何と4位に入賞しました。最高の幸福感というと言い過ぎですが、人々はとにかく嬉しかったです。しかし、別のときに聞いてみると、南アフリカのサッカーは性根が腐って、てんでんバラバラになっているので、全世界の規模で同じ失敗をしてしまえば恥ずかし過ぎる、という声もありました。

 

今の研究に着手した頃、こういった視点は人種によって異なると思っていました。つまり、白人に聞けば「きっと大失敗」、黒人に聞けば「南アフリカの魅力を世界に届ける、素晴らしいW杯になる」という傾向を予想していました。しかし、そう簡単ではありません。ある日、プレトリアでスーパースポーツ・ユナイテッドカイザー・チーフスの試合に行きましたが、黒人のチーフスファンは現地の警察と喧嘩になりました。プレトリアはアフリカーナ民族主義の牙城で、この黒人たちによると、警官の扱いは差別的だったそうです。そのあと、皆はW杯についても悲観的になり、同じような人種差別があれば南アフリカ人としてすごく恥ずかしい、と言っていました。一方、多くの白人はコンフェデレーションズカップの成功を見て、逆にかなり楽観的になっています。ですから、全体的には何を考えれば良いか良く分からないという、ちょっと複雑な雰囲気です。もちろん、ほとんどの南アフリカ人はW杯の成功を祈っていますし、すべてがうまくいけば必ず大成功に終わると思っています。

 

しかし、それと同時に、南アフリカと南アフリカ人に対する欧米のステレオタイプにはやはり飽きていますね。話は変わりますが、先日のベルリン世界陸上、女子800mで優勝したカスター・セメーニャ選手のケースも同じことでした。イギリスの新聞を読むと、「アイツ、女か?男か?分からないね!南アフリカの怪しいところから来たし…」というように書いています。一方、南アフリカの新聞では、この選手の性別が疑われているというのは本人だけではなく、南アフリカ全国が侮辱されているんだ、という雰囲気です。前回にも言いましたが、このケースも新植民地主義臭いですし、南アフリカにいたイギリス人として、このような報道がすごく恥ずかしかったです。

 

さて、フレッチャー氏自身は楽しみにされていますか?

 

オーイェス!正直、見事な大会に終わると思います。様々な変化が確かに必要だったかもしれませんが、ヨハネスブルグはすでに変貌しつつあり、全国が動いています。今の努力や取り組みの結果が早く見たいです。これまで見たこともないようなW杯になると思います。

 

今回は初めての「アフリカのW杯」ですが、実は独特の「南アフリカ的」な要素もあり、より広い意味で「アフリカ的」な要素もあります。例えば、コンフェデレーションズカップで話題となったヴヴゼーラは特に「南アフリカ的」なもので、話してしまうともう1つの3回シリーズになります。しかし、1つだけ気になるのは、FIFAや南アフリカの政府、組織委員会は「すべての南アフリカ人とアフリカ人のためのW杯」と掲げながら、観客の半分以上は西ヨーロッパ人になりそうです。つまり、アフリカ人ではなく、先進国のお金持ち、ということです。

 

FIFAのゲストもそうですしね…

 

そうですね。普通はFIFAを弁護しようと思いませんが、各試合に多少、南アフリカ人限定の特別割引チケットも販売しています。ですから、より貧しい人々でもその場でW杯を楽しめるチャンスがあります。しかし、私の見たところでは、実際にこの特別割引チケットを買っているのは貧しい人々ではなく、私やベンより遥かにお金持ちの南アフリカ人です。それはちょっと心配ですが、全体的に、本当に素晴らしい大会を期待しています。

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【インタビュー】W杯に向けて南アフリカの現況: ②準備

2009/09/01(火)

岡田ジャパンはすでにどこよりも早く、W杯出場権を手に入れているが、来年の開催地、南アフリカは多くのファンや記者、選手にとってまだまだ未知の世界である。そこで私は、先月まで19ヶ月、ヨハネスブルグで南アフリカサッカーの現況を調べてきた、英・エジンバラ大学の博士研究者、マーク・フレッチャー氏にインタビューを行った。3回シリーズの2回目では、フレッチャー氏がW杯開催に向けて南アフリカの準備について語る。

 

1回目はこちら

 

 

6月のコンフェデレーションズカップはまずまずの成功で終わりましたが、来年の本大会では、交通やスタジアム、各施設のニーズはそれより遥かに大規模なものになります。フレッチャー氏は現地でコンフェデレーションズカップのみならず、各地で国内リーグ戦なども観戦してたそうですが、正直に言えば、南アフリカの準備は本当に間に合うでしょうか?

 

大丈夫です。スタジアムの建設は全て間に合いそうなので、自信を持って絶対大丈夫だと言えます。予定より早く進んでいるスタジアムもあります。サッカー・シティは本当に素敵ですし、ヨハネスブルグのオーランド・スタジアムなど、世界最高レベルの練習場も出来ています。コンフェデレーションズカップ、特にヨハネスブルグでは、サポーターをスタジアムまで運ぶためにバスが用意されていましたが、開幕戦のときには、これがめちゃくちゃでした。皆は自分が何をしているのかも分かっていなかったので、大混乱に陥ってしまいました。本当に大変でした。しかし、決勝戦の頃には、ずいぶん良くなっていました。私自身は4、5回エリス・パークの試合に行きましたが、行く度に何かがましになった、何かが良くなった、ということが目に見えて明らかでした。警官も多くなり、案内表示やバリアの使用もより効果的になっていました。関係者たちは常に学んでいることを感じました。ですから、少なくともコンフェデレーションズカップの開催会場や都市は確実に間に合います。本当に信じています。

 

しかし、コンフェデレーションズカップで使えなかった会場や、その都市の交通機関などはどうでしょうか?

 

それは確かに、大きな問題の1つですね。例えば、ヨハネスブルグとブルームフォンテーンプレトリアルステンブルク(コンフェデレーションズカップの開催都市)とは違い、ネルスプロイトポロクワネの場合はリハーサルの機会が一度もありません。7月、オーランド・パイレーツマンチェスター・シティの親善試合がポロクワネで行われましたが、そのときは3万人程度のパイレーツファンしかいなかったのです。毎日、何万人かの観光客が世界各地からやってくるW杯の規模とは全然違います。

 

それが聞きたかったです。仰る通り、もうリハーサルの機会がないので、様々な課題が残っている中、南アフリカの準備は本当に大丈夫なのかなと思ってしまいます。

 

それは分かりますけど、別に南アフリカに特有な問題ではありません。W杯のような巨大スポーツ大会を開催するにあたり、どの国でも同じ問題と出会います。2012年の夏季オリンピックはロンドンで開催ですが、そこに何か大失敗があっても、イギリス人としてそれほど驚かないでしょう。南アフリカも確かに色々と解決しなければなりませんが、W杯の期間中に例え問題が起きても、当然のことです。前回、間違った認識について話しましたが、欧米のマスコミもいつもアフリカに対して悲観的なことばかり言っています。本当に、新植民地主義臭いです。「我々は欧米人、あなたたちはアフリカ人。我々は何でも分かっている、あなたたちはW杯のような大会を開催できるわけがない。」いつもこんな言い訳だらけです。例えば、イギリスのガーディアン紙。その記者の報道にはかなりがっかりしています。

 

ガーディアン紙と言えば、ルイーズ・テイラー氏が少し恩着せがましい記事を書いて、話題になりましたね。

 

最近、ガーディアン紙の(南アフリカに関する)ブログや意見記事はほとんど恩着せがましくて、考えの浅くて、調査すらされていないものばかりです。この記事を書いた本人は南アフリカに行った経験もありません。ガーディアン紙のような立派な新聞でもこういう変なことを書いているようだと、南アフリカとアフリカ全体に対する世間の認識を変えるのは、ものすごく大変な問題になりそうです。

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