文化ショック
イングランドのサッカー界では、外国人選手の流入に関する議論は今に始まったことではないが、今季のプレミアリーグ開幕に寄せてBBCスポーツの特集記事を見ると、各クラブがここ20年でどれだけ多様化してきたか一目で分かる。中流階級のイングランド人にサッカーへの愛を思い出させた1990年W杯イタリア大会の直前(そして、現在の金権の道を開いたプレミアリーグ創設の3年前)、1989-90シーズンには、外国人選手というのはまだまだ珍しい存在だった。いわゆるビッグクラブでさえ、イギリス出身でないメンバーがわずか1、2人に過ぎないことが一般的であり、同年のチャンピオン、リバプールには5人もいて、非常に例外的だった。さらに、「外国人」と言いながらも、その中、国籍がベルギー、ノルウェイなどといった北西欧の選手が過半数だった。
現況はもちろん、正反対である。今季、2009-10シーズンには、2部から昇格したウルバーハンプトン・ワンダラーズは20:8とイギリス出身の割合が最も多いが、それに対して、アーセナルの27人のメンバーのうち、イギリス人がセオ・ウォルコット等4人の21歳未満選手しかいない。現在のプレミアリーグ選手はグアドループ島(ウルバーハンプトンのロナルド・ズバル)からコソボ(サンダーランドのロリック・サナ)やガボン(ハル・シティのダニエル・クザン)まで、真に世界の至るところから集まっている。アジアと言えば、イラン人選手(フルハムのアントラニク・タイムリアン)、オマーン人選手(ボルトン・ワンダラーズのアリ・アルハブシ)、そして3人の韓国人選手(マンチェスター・ユナイテッドの朴智星(パク・チソン)、フルハムの薛琦鉉(ソル・ギヒョン)、ウィガン・アスレティックの趙源熙(チョ・ウォンヒ))も現役で活躍している。しかし、今年も残念ながら、プレミアリーグに日本人選手が1人もいない。
スタメン競争があまりに激しいにもかかわらず、海外リーグでプレーするイングランド人選手がほとんどいないが、国内の人材があまり海外へ流出しないという点を除き、Jリーグの人材動向はプレミアとあまり共通点がない。EUの労働規約がもちろん適用されない日本では外国人枠があるため、外国人選手の割合がこの17年でほぼ一定しており、シフトがあったとしても、ブラジルリーグから(また、「アジア枠」が設けられた今年はKリーグからも)やってくる傾向がさらに顕著になってきただけである。Jリーグ開幕時、ゲリー・リネカーが名古屋グランパスエイトで怪我にも悩み、早くも引退して以来、大物のイギリス人選手が1人も来ていない。しかし、これと同様に、今までJからプレミアへ挑戦した日本人選手はまだ3人に過ぎない。中田英寿は現役引退する前の1年をボルトンで過ごし、十分結果を残したが、稲本潤一は移籍を重ねなかなか落ち着かなかったし、戸田和幸のトッテナム・ホットスパーで出場した4試合はたぶん忘れたほうが良いだろう。
「アジア人は体が小さく、イギリスのようなアグレッシブなサッカーには向いていない」というのは確かに甘口な意見であるが、それでも事実とそう懸け離れてはいない。今やプレミアリーグに韓国勢が現れた背景には、朴智星と薛琦鉉の2人はフース・ヒディンク監督のもとで育成され、そしてもう1人の趙源熙もウィキペディアによると、「スタミナと…闘志あふれるプレースタイル」という主な特徴を誇る。しかし、西欧サッカーを文化や民族で2つに分けてみると、日本人選手はやはり「ゲルマン系」の北部より、技術を発揮できるスペースのあるセリエAなど、「ラテン系」リーグのほうではうまく活躍できている傾向がある。
とはいえ、この傾向には変化の兆しがようやく、少しずつ見えている。今年までセルティックでプレーしていた中村俊輔はフェイエノールト時代の小野伸二の成果を基にさらに前進し、日本人選手でもゲルマン系のサッカーで成功できることを後輩たちに証明した。そこで、本田圭佑はキャプテンとしてVVVフェンロをオランダ2部のタイトルへと導き、長谷部誠もドイツ・ブンデスリーガでVfLボルフスブルクの初優勝に貢献した。特に本田選手は、オランダ1部でもすでに見事な成績を残している結果、ヨーロッパ中に注目を集めているが、理想的には、プレミアのようなリーグに移籍するまで、オランダでの成長をあと1~2年ぐらい続けば良いだろう。焦らずに、きちんとゲルマン系の教育を受けておいたほうが、彼自身だけではなく、結果的に日本サッカーの成長にも繋がるかも知れない。
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コメント
セルティックはケルト系のクラブなんでゲルマン系では無いのでは
投稿: | 2009年8月21日 (金) 21時01分
元々のルーツは確かにケルト系であるが、14~16世紀からスコットランドにゲルマン系の影響が全体的に強く、ここで言っているサッカー文化も間違いなくゲルマン系である。あるクラブや選手にケルト系の歴史や影響も残っているかもしれないが、ここで言っている広い意味では、スコットランドサッカーのスタイルや特徴を見ると、イングランドやドイツと同じ「ゲルマン系」のグループに入らないことはないだろう。
投稿: Ben Mabley | 2009年8月22日 (土) 14時31分