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2009年7月

承りました、社長様

2009/07/28(火)

日本人の交渉術や外交手腕はいつも、外国人にとって非常に興味深いことである。例えば、日本語では尊敬語や謙譲語など、同じことを言うのに幾つもの表現方法があり、相手や場面に考量して適切な言い方を選択する必要がある。交渉の場面で、「NO」と言いたいときは「ちょっと難しいかも知れない」と痛手を和らげようとすることが一般的である。また、高級ホテルであれマクドであれ、サービス業の現場で働いている歩兵は(とにかく、欧米と比べ)みんな、お客さんにどんなことを言われても一生懸命、丁寧に対応してくれる。一方、次々とスキャンダルに巻き込まれ、見境なく相手や国民に対して無神経な言葉を言うほうが、政治家や主要機関の代表(つまり、外交的手腕が仕事の方)なら「普通」という気がする。

 

「向こうが神経過敏だった」と言い張る者もいるが、東京の閣僚たちはとにかく、もっと気をつけなければならないことがもう分かっているはずである。日本の総理大臣は毎年のように交代するが、現職の麻生太郎首相は幾つかの思い付きのような発言もあり、永遠の与党自由民主党は来月の衆議院議員総選挙で鳩山由紀夫代表の民主党に政権を奪われる可能性が高いという。昨年の9月、麻生内閣が成立してたった3日後、すでに日本を単一民族と表現していた国土交通大臣、中山成彬氏が日本の教育のガンは日教組と発言し、翌日にその責任を取り辞任することとなった。が、それ以来は総理大臣自身がこの不思議なパターンをまるで新しいレベルに持ってきた。わずか10ヶ月の政権で、医師は社会的常識がかなり欠落している人が多いと述べたり、日本の親を批判したり、高齢の患者に対してたらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ…私の方が税金は払っていると言ったりした結果、高齢者など自民党の支持者が一気に急減してきた。しかし、今振り返ってみると、2001年自由民主党総裁選挙の頃、野中広務について『野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ』という差別発言疑惑などの歴史もあり、最近のコメントは驚くべきというより、「さすが麻生」と言って良いだろう。皮肉にも、1987年以来の14人の総理大臣のうち、政権を無事に3年以上維持できたのは、同党総裁選挙で麻生氏に勝利した、小泉純一郎元首相だけである。

 

こういった政治議論を背景に、今月の万博記念競技場も大変なことになっており、ガンバ大阪の金森喜久男社長は5日間に2回も怒ったサポーター立ち向状況が続いた。11日の清水エスパルス戦の試合前には、金森が新スタジアムの企画について(幾つものテークで録画された)発表を行い、概ね万博の拍手を浴びたが、「具体的な内容は?!」という一部の声もあり、ホーム4連敗となる1対4の惨敗の後は、ガンバの監督やフロントに対して世論の風潮が一段激しくなった。そこで、金森の態度も変わり、高慢や怒りっぽさが現れてしまった。試合後、およそ1000人のサポーターが1時間程度、北ゴール裏で居残り抵抗をしていたが、金森は小さなマイクを持ち、ようやくスタンドの前に姿を表すと、突然「うるさいなあ!」とイライラを表に出した。そして、試合内容にもかかわらず90分も歌い続けた、ファンの罵倒がさらにノリノリになるのは当たり前であるが、空気を読んでいないかのように、金森はサポーター側ももっと応援しなければならないというふうに答えた。

 

これに続き、ガンバは15日のナビスコカップ戦で横浜マリノスにも敗れた後、アンコールが繰り返された。今回は、平日の影響もあり人数が約300人へと減少していたが、居残り抵抗や金森との緊急集会が2時間以上も続き、最後のサポーターは結局、深夜0時頃にスタジアムを去った。今にして思えば、最初に金森がサポーターに立ち向かったこと、そしてパニックせずに監督の西野朗への信頼を強調したことは、評価すべきである。確かに、金森は60年も日本の縦社会のルールに従ってから、周りの人に「社長様」と呼ばれるステータスまで上昇してきた中、大衆から批判されるのは大変だろうし、集会が進むにつれて、その態度が多少落ち着いたのも事実である。しかし、政治と同様に、地元の人々との良好な関係がプロサッカークラブにとって何より欠かせないものである。残念ながら、金森の当初の対立的なアプローチは「我々を分かってくれない」というサポーターの疑念を裏付けてしまった。もしガンバは土曜日にJ1最下位の大分トリニータにも負けたとすれば、抵抗は夜の何時まで続いたのだろう。

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シーズンの中間点にて

2009/07/08(水)

2009年Jリーグシーズンの前半戦が終わろうとしている今週、後半戦に向けて4つの質問。

 

① アントラーズは、誰が止められるのか?

先週、名古屋・川崎とアウェイ連戦に臨んだ鹿島アントラーズについて、私は4年前の優勝争いに振り返り、前半戦はいくら独走しても、最後はどうなるか分からないと述べた。しかし、鹿島はこの厳しい連戦を無事に終え、リードが勝ち点8のままということは、連覇を止められるのは2005年のような急失速しかないと考えられる。最下位の大分トリニータには辛うじて勝利を収めたが、名古屋グランパスを3対0で圧倒することによって、ACLの痛みをなかったことにできた。そして、優勝候補の2番手とも言える川崎フロンターレ戦では、60分以上も1人少ない状況で1点を追う展開となったにもかかわらず、粘って引き分けに持ち込んだというのは、チャンピオンらしいクォリティと執念の証だった。もし、すでに自信を取り戻しているのであれば、先日FCソウルに負けたことは結果的に、災い転じて福となったかもしれない。ACLの日程にとらわれず、これからリーグ3連覇だけに集中できる。

 

② アルビレックス新潟は最後まで戦い続けられるのか?

アルビレックス新潟は今年の第2節、矢野貴章ペドロ・ジュニオールのゴールで何と鹿島を倒したが、当時はアルビレックスの強さというより、4日前にACLでも惨敗を喫したアントラーズの低迷が原因とされた。しかし、それから4ヶ月の間、新潟の熱狂的サポーターにとって喜びが止まらない。アルビレックスは7位以下に落ちることなく、第16節終了時点で得失点差で2位に浮上している。5、6月のナビスコカップ戦では4連敗を喫し、バブルが崩壊したかとも思われたが、リーグ中断明けはガンバ大阪、名古屋、そして柏レイソルを相手に連勝を続けている。鹿島を上回り、初優勝を狙うのは難しいだろうが、昨シーズンを13位で終了したアルビレックスにとって、後半戦のチャレンジはACL出場権獲得に挑戦する他ない。矢野との契約更新に合意したということは、このターゲットに向けて大きなプラスとなるだろう。

 

③ モンテディオ山形はもうガス欠?

新潟対鹿島の8日前、モンテディオ山形がJ1のデビュー戦で大ニュースになった。山形は名門のジュビロ磐田とアウェイで対戦し、最後の15分で4点も挙げ6対2と圧倒的な勝利を飾った。それから、9試合で勝ち点15を獲得し、5月まで5位以内に残ったことで、2005年のセレッソ大阪優勝目前まで導いた小林伸二監督が再びJ1の脚光を浴びた。しかし、第10節からリーグ戦7試合では、記録が1分け6敗と白星なし、順位を降格圏内の16位まで落とした。セレッソは2005年の優勝争いの翌年、悪夢のようにJ2に落ちてしまったので、小林監督はすでに失脚を味わったがあるが、今回は残留争いのライバルと比べ、モンテディオは全体的に経験がまだまだ浅い。13位の横浜Fマリノス12位のジュビロを相手に次の2試合で調子を少しでも取り戻さなければ、最近の急落は絶望的なものとなるかもしれない。

 

④ どこがJ1へ復帰するのか?

J2の第25節を終えた時点では、4つの元J1クラブが残りの14チームに水をあけているが、待ちに待った復帰・昇格はそのうち、最大3つにしか与えられない。セレッソ大阪は日本代表MF、香川真司乾貴士の攻撃力に恵まれ、久々に注目を集めてきたが、中田英寿洪明甫の黄金期が終わって10年もJ1から姿を消している湘南ベルマーレは5日、セレッソを上回り、現在J2のトップに立っている。続いて、昨年の入替戦で昇格を逃したベガルタ仙台(現在3位)と4位のヴァンフォーレ甲府もそれぞれ、クラブ史上でまだ2シーズンしかJ1で戦っていないので、ファンの応援や我慢に報いるためにも、2度目のチャンスを得て有効に活かしたい。しかし、今季から計51試合の長丁場を戦っている中、最終順位が例年よりも予測しにくいだろうし、もしも現在の4強はこの厳しい日程で疲労が溜まれば、大黒将志の得点力に支えられている東京ヴェルディなどにもまだまだチャンスがあるかもしれない。

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上下のプレッシャー

2009/07/01(水)

Jリーグの日程が発表された頃、ACLベスト16という一発勝負の直後に大分トリニータとのアウェイ戦に臨むことになった鹿島アントラーズは、JFAや「日程くん」(日程を決めるソフト)に嫌われているかと思ったかもしれない。しかし、優勝争いを最後まで戦った、2008年の堅守の大分は一気に調子が逆転し、今年はまだ勝ち点4しか取れていない上に、すでに昨年の年間失点数を超えているので、このスケジュールは結局厳しいどころか、むしろ大変やさしいものとなった。J1首位の鹿島はリズムに欠け、54分に清武弘嗣に先制点を奪われたが、それでも楽に逆転し、リーグ戦12連敗となるトリニータに次の敗北を負わせた。これにより、2位のアルビレックス新潟との勝点差は7のまま、アントラーズの連勝は7へと伸びた。

にもかかわらず、アジアの舞台でまた大きな失望を味わった鹿島は今季初めて、真価が問われている感じがする。絶好調のFCソウルにPK戦で負けたからと言って、必ずしもプレッシャーに弱いというわけでもないが、シーズンの焦点や気持ちはACL敗退によって変わってしまうというのは、避けられないことである。先週は、第一のハードルをクリアできれば、リーグの余裕を活かし悲願のアジア初制覇に挑戦していくと話したが、この夢が消えてしまい、これからはリードを守るしかない。今週、ACL準々決勝へ無事に進出した名古屋グランパス川崎フロンターレを相手にアウェイ連戦が続くが、この2試合でパフォーマンスを取り戻さなければ、(優勝候補の2番手とも言える)川崎との勝ち点差が2まで縮まる可能性が十分ある。

前回、鹿島は「すでにアジアのベストとも言える」と述べたし、PK戦を除けば、3月18日の上海申花戦を皮切り、公式戦18戦無敗中のアントラーズに対する意見と尊敬は変わっていない。しかし、鹿島の独走と3連覇を止めたいフロンターレやアルビレックス、浦和レッズガンバ大阪といったライバルのサポーターはつい4年前、2005年の優勝争いを振り返ってみれば良い。鹿島は機関車のような勢いでシーズンスタートを切り、開幕から8試合で7勝1分けという記録を残した。7月3日、第13節の清水エスパルス戦は2対1で勝ったことで、勝ち点を早くも32、2位のガンバとの差を勝ち点10へと伸ばした。ところが、梅雨明けの頃、急ブレーキがかかった。メンバーが現在とあまり変わらない鹿島は第12節から最終節まで、1度も連勝できなかった。清水戦のちょうど2ヶ月後、9月3日にガンバが順位を上回りトップに立った。結局、アントラーズは最後の10試合で7回も引き分け、シーズンを3位で終了した。

ところで、この12連敗と泥沼の大分では、クラブを次々と成功へ導いたペリクレス・シャムスカ監督の時代はそろそろ、終わりを告げる可能性が高まっている。2005年9月にボタフォゴから来日した、言わば無名のシャムスカ監督は13試合で勝ち星がなかったトリニータにとって守り神のような存在となった。就任から6試合で5勝1分けという見事な成績を残し、J2に落ちそうだった大分は無事に11位で終了した。スタイルはブラジルの攻撃的なイメージとは正反対かもしれないが、安定した守備と戦略をベースに、昨年はナビスコカップでクラブの初タイトルに輝き、リーグも33得点・24失点という記録で史上最高の4位になった。皮肉にも、いわゆる「シャムスカ・マジック」が切れてしまうと、就任前の低迷を連想させる連敗が続いているが、まかり間違っても、大分のファンは幸せな思い出を忘れないで欲しい。イーブンパーより、ジェットコースターの波乱万丈のほうがやはりだいぶ面白い。

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