若さの輝き
マンチェスター・ユナイテッドのFAカップ4回戦(対トッテナム・ホットスパー)は3人の若い選手にとってデビュー戦となり、注目を集めた。これは、怪我人が多いというのもあったが、プレミア・リーグの後半戦が熱くなりはじめている中、影が薄くなっていたこのカップ戦に輝きを与えたに違いない。ビッグクラブのファーストチームに選手が25人以上も所属するこの時代、21歳以下の選手を3人も新しく投入することはずいぶん珍しいが、特にユース育成の伝統が豊かなユナイテッドでは、若い選手の活躍はいつもファンの胸を躍らせる。1986年の就任以来、この伝統を継続してきたファーガソン監督にとっても、まるで不老不死の薬のようである。
今シーズンの新人スターは間違いなく、右サイドバックのラファエウ・ダ・シウヴァであるが、左サイドバックでプレーする双子の兄、ファビオも顔だけでなく才能も同じと評価され、初登場が期待されていた。皮肉にも、ファビオのデビューは弟が怪我しているため実現したが、兄は最初から活発なプレーを見せ、サポーターに印象を残した。残念ながら、怪我の影響で交代されることになったが、ファビオと変わった19歳のリチャード・エカーズリーも、2005年のカーリング・カップで1回出場した兄のアダムに続き、ユナイテッドのデビューに輝いた。また1月の移籍の窓、パルチザン・ベオグラードから加入したゾラン・トシッチも72分からピッチに入り、活躍する時間が限られたが、出場機会はこれから増えると思われる。
次世代に繋ぐという意味で、ガリー・ネヴィルやポール・スコールズと同じピッチで肩を並べたこともふさわしかったが、サッカーがこの20年で大きく変化してきたことも浮き彫りになった。ライアン・ギグスやデビッド・ベッカムも育った、1992年FAユース・カップ優勝の世代はどの時代にも例外的かもしれないが、現在のビッグクラブには若者選手が世界の隅々から集まっている。セルビア代表のトシッチ(21歳)は、さらに期待されているアデム・リャイッチ(17歳)とともに、合わせて1630万ポンド(約21億円)の移籍金で獲得された。一方、ブラジル出身のダ・シウヴァ双子は18歳になるまでプレーする許可が下りないにも関わらず、16歳のときにユナイテッドと契約を結び、結局、古巣のフルミネンセのファーストチームに1回も出場せずに昨年から加入した。
もちろん、外国人選手の流入はプレミア・リーグ発足以来の傾向であるが、ユースにも広がってきた原因の1つはFAのアカデミー制度である。1998年に創設されたこの制度は、若い選手にサッカーだけではなく幅広い教育を行うことを狙いとし、評価されているが、すでに充実したユース体制を備えていたクラブにとっては、国内の生徒は90分の通学圏内に住んでいるという条件に異論がある。このルールの結果として、ユナイテッドはイングランドの南部などでスカウトできないが、代わりに活動を全世界に広げ、ジェラール・ピケ(現:バルセロナ)、ジュゼッペ・ロッシ(現:ビジャレアル)、ダ・シウヴァ双子の他に、将来の活躍が期待されているロドリゴ・ポセボン(19歳、元インテルナシオナル)やフェデリコ・マチェダ(17歳、元ラツィオ)などを10代のときから獲得するようになった。また、トシッチやクリスチアーノ・ロナウド、アンデルソンなどのように、現役としてすでに実績を残し始めた若い選手も、うまく育てると真価がさらに上がるという前提で巨額な移籍金で入団した。ロンドン出身のベッカムは現行規則では、ユナイテッドのユース体制に所属できなかったが、エカーズリー兄弟のようなマンチェスター生まれ育ちの選手にとっても、競争がどんどん激しく、グローバル的なものになっている。
この傾向は必ずしも悪いことでもなく、ユナイテッドのファンとしてラファエウやファビオのプレーを見て確かにドキドキするが、やはり初めてスコールズやギグスを見たときの気持ちとは少し違う。エリック・カントナが1990年代の選手育成に貢献したように、Jリーグではドゥンガ、ドラガン・ストイコビッチやシジクレイなども若い日本人選手にとって大きな存在となっていたが、実際に一緒にプレーもできたことは何より大事である。ボスマン判決が適用されない日本では、代表チームの安田理大(ガンバ大阪、吹田市出身)や香川真司(セレッソ大阪、神戸市出身)をはじめ、多くの若い選手が地元のクラブで活躍できることは、サポーターの誇りと親しみにも繋がる。
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