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2008年10月

初トロフィーを狙う、シャムスカ監督と大分トリニータ

2008/10/31(金)

大分トリニータと清水エスパルスは1日、東京の国立競技場で2008年ヤマザキナビスコカップの決勝戦を戦うが、マンチェスター・ユナイテッドのような攻撃を好むイギリス人として、普段はトリニータを気に入るはずがない。リーグ首位との差はわずか2点で、タイトルを獲得する能力は明らかにあるが、その主な理由はJ1最少失点を誇る堅い守備である。

 

30節まで、相手に23得点しか与えていないのに対して、攻撃面では降格が既に決定的なコンサドーレ札幌も下回る、31点しか取れていない。勝点51のうち、21は1対0での7勝利で得られた。ほかのチームと比較すると、同じ勝点51で並んでいる川崎フロンターレは、記録が得点54失点40であり、つまり、川崎の試合の総合得点数は大分のほぼ2倍である。2004年の横浜FマリノスはJリーグ史上の優勝チームのうち最も少ない、30試合で47点しか挙げなかったが、これでも今年のトリニータの1.5倍ほどである。

 

また、ガンバ大阪のサポーターとして、個人的にトリニータを嫌う理由もたくさんある。トリニータが2003年、J1に昇格して以来、ガンバは大分での成績が6戦全敗であり、私が万博で生観戦した4試合のうち、ガンバはトリニータに3回も敗れた。

 

しかし、私は何故、大分トリニータを嫌いでいられないかというと、やはりペリクレス・シャムスカ監督の偉業は尊敬するしかないからである。初めてのJリーグに関するライターの仕事をしていた2005年の夏、大分がまた負けて急落しているという記事を毎週毎週書いたものであり、結局4か月にもわたる13試合で勝ち星なかったトリニータは17位に落ち、皇甫官監督が辞任した。しかし、ブラジルからこういった厳しい環境に入ってきたシャムスカ監督はすぐにチームに魔法をかけた。就任後の6試合では、トリニータは5勝1分けという見事な成績を残し、清水に5対0で楽勝し、優勝候補のガンバをアウェイで倒せるチームへと変貌した。第22節まで勝点19しか取れなかったトリニータは、最終節までの12試合でチャンピオン並みの勝点24(7勝3分け2敗)も獲得し、結局11位で終了した。この逆転はまるで「シャムスカ・マジック」だった。

 

11位というのは当時、大分にとって史上最高の成績だったが、フォワード・キーマンのマグノ・アウベスがクラブから離脱したにもかかわらず、シャムスカ監督は2006年にもトリニータをさらに成長させ、8位に導いた。昨年は14位に落下し、来日後初めての批判に直面したが、シャムスカ監督は自信も笑顔も失わず、むしろこの挑戦をもう一度マジックをかける機会に転換した。昨年の総失点60という問題を踏まえ、守備重視なスタイルに切り替えたが、システムや守備のメンバー(上本・森重・深谷のスリーバック、ホベルト・エジミウソンのダブルボランチ)を概ね変えずに、この失点率を半減することもできた。シャムスカ監督の戦術や忍耐のおかげで、大分トリニータはリーグ・ナビスコとい2つの戦線で初タイトルに近付いてきている。

 

しかし、目下の問題は最後までやり抜けられるか、ということである。このことはもちろん、優勝争いや決勝戦の経験が浅いチームにとって特に難しい点であり、大分は9月27日まで17戦無敗を記録して以来、1勝3敗で1得点しか挙げていない。ナビスコカップ決勝戦の相手、清水は反対に10月4日、FC東京とのアウェイ戦を5対1で楽勝したのを皮切りに、優勝候補の川崎とガンバも相次いで破り、現在絶好調である。そのサポーターは「大分との歴史の差を見せつけたい」と話し、エスパルスは確かに1996年のナビスコカップと2001年の天皇杯といった優勝歴があるが、1日は2002年のゼロックス・スーパーカップ以来、6年ぶりの国立になる。ナビスコカップの意義や将来性は未だに論議の対象かもしれないが、今年のような、お互い優勝に慣れていないチームが対決する決勝戦は、両チームのサポーターも中立のサッカーファンも共に楽しみにすることだろう。

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名門もJ2に?

2008/10/21(火)

19日、コンサドーレ札幌はホームで柏レイソルに敗れ、降格が決定的となったが、その前日、日本の名門の1つも、J1での寿命が縮まったかもしれない。ジュビロ磐田は先制点を挙げはしたものの直後に追いつかれ、後半からはガンバ大阪に完全に支配され、勝てそうには見えなかった。それでも89分までゴールを何とか守っていたのだが、決勝点のタイミングはまさに、残留争いの不運だった。ジュビロより、成功歴のあるチームがこれほど危険な状況に陥った例が過去にないが、ハンス・オフト監督が言う通り、サッカーでは「どんな偉大なクラブも降格することはある」。

 

それでもなお、ジュビロが2009年からJ2チームになれば、劇的な失脚ということになる。2003年までの7シーズンでは、ステージ優勝を6回、年間優勝を3回も果たし、その上にナビスコカップ・天皇杯・アジアクラブ選手権のタイトルも1回ずつ獲得した、という見事な黄金時代を築いていた。2004年から優勝争いに絡むことがなくなったが、一昨年まで毎シーズン6位以内には入り、史上最低の成績を残した昨年でも、残留が危うくなることはなく、9位という結果を記録した。清水エスパルスに上回られたことでサポーターは不満を漏らしていたが、ジュビロの降格で静岡ダービーがなくなることは思いも寄らなかったことだろう。

 

名門クラブの中で、東京ヴェルディもJ2降格という恥に苦しんだ経験があるが、その低落はより緩やかなものだった。川崎の時代、それぞれの初開催からJリーグとゼロックススーパーカップを2年、ナビスコカップを3年連続優勝した。その後、東京に移転したのだが、結局J2に落ちた2005年まで低迷していた。2006年は最終的に7位で終了したが、去年は2度目の試みでJ1に復帰した。現在、日本一のビッグクラブと言える浦和レッズももちろん、2000年の1年だけJ2の屈辱を味わったが、これも小野伸二が僅か20歳のときで、立派な埼玉スタジアムで日本やアジアを制覇するどころか、いかなるタイトルも獲得していない時代だった。

 

しかし、ヴェルディと浦和が早期にJ1に戻れたからといって、ジュビロというビッグクラブが落ちた場合は、必ずしもすぐに復帰するわけではない。セレッソ大阪は2005年のJ1優勝を最後の最後に逃した翌年、何とJ2に降格してしまったが、昨年の開幕から3連敗を喫した影響もあり昇格ができず、今年も現時点で6位で、J2の所属は3年目に伸びそうである。昇格争いの相手の1つ、湘南ベルマーレも1994年のセカンドステージ準優勝と天皇杯優勝を皮切りに黄金時代を迎え、中田英寿、呂比須ワグナーや洪明甫が入団し1996年のアジアカップウィナーズカップも優勝した。しかし、その3年後に降格し、今年は9度目の試みでJ1に戻るチャンスがようやく見えてきたが、昨年までは昇格候補でさえなかった。

 

ビッグクラブとして、ジュビロ磐田はスター選手のイメージが強いが、万博のスコアボード表示で土曜日のスタメンを見ると、スター選手の不在がかえって目立っていた。Jリーグの当初から、ジュビロは計画的な育成方針を採用し、まさに類のない成功を収めた。まずはドゥンガやサルヴァトーレ・スキラッチの入団で補強し、そして藤田俊哉や名波浩など、若いときからこの優秀な外国人選手の下で学び成長した日本人選手をチームの中心にした。しかし、名波や中山雅史は年を取り、藤田や福西崇史は離脱し、この方針を次世代の継続的な成功へも繋げることがなかなかできなかった。Jリーグの競争がますます激化している中、名門のクラブさえ、残留が当然のこととは考えてはいけない。

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ガンバ vs. 浦和 – 複雑な心境

2008/10/14(火)

8日のACL準決勝の第1戦を終始熱く戦ったガンバ大阪と浦和レッズの両チームにとっては、ワールドカップ予選のためのリーグ中断はタイミングの良い気分転換となっただろうが、落ち着いて振り返ってみると、浦和のほうが有利な立場で第2戦を迎えることは確かである。特に後半に入ってから、調子を取り戻したガンバに支配され、81分まで何とか守れた1点リードを遠藤保仁のPKで失ったことは辛かっただろうし、累積2枚目の警告で3人も出場停止となることもエンゲルス監督にとって厄介な問題かもしれない。しかし、チャンスを作るも相変わらず決め切れなかったガンバは今回はPKに助けられたが、埼玉スタジアムで22日に行われる第2戦に向けて、この試合の勢いを最大限に活かし、勝ちたかったに間違いない。

 

もちろん、試合終了の合図の時点では、このように感じなかった。前半は両チームとも、決してアジアに見せて欲しい内容ではなく、22分に失点したガンバの視点から見ると特に憂鬱になりやすい状態だったが、後半はバレーの離脱以来、初めてガンバらしい攻撃の流れに変わった。明神智和のシュートが阿部勇樹の頭経由でクロスバーに当たるなど、同点ゴールがきっと来るという雰囲気が続き、ようやく同点に追いつくと、チームもサポーターとともに一斉に盛り上がっていた。選手の負傷にも対応しながらリズムを上げたことは西野監督の成功だったが、本業の守備として全く役に立っていないミネイロがフォワード陣のピンチになると、人材不足が明らかである。より自信を持ってシュートを打てる選手さえいれば、昨年のスーパーカップ・ナビスコカップ(4-05-2)のようなスコアもあり得る後半だった。

 

しかし、この試合のパフォーマンスでガンバが弾みをつけたことは言うまでもなく、18日のJ129節に向けて、両監督のアプローチが興味深いところである。シーズン閉幕まで後6試合の段階で、ガンバは現在7位で首位との勝点差が6であるので、優勝は非常に厳しいがまだまだ諦めたくないという、少し中途半端な状況にある。しかも、残留が危うくなっているジュビロ磐田との試合では、西野監督は浦和との第2戦に向けて勢いをさらに増そうとするか選手を休ませるか、また、安田理大など怪我から復帰しようとしている選手をどう活用するかといった、様々な選択に迫られる。

 

浦和のエンゲルス監督も同様、出場停止の穴を埋めるためにキーパーの山岸範宏などをヴィッセル神戸戦から使うかどうかという判断に直面する。ところが、J1の混戦模様が続いている中、第一優先はまず4試合振りとなる勝利を掴み、鹿島アントラーズと名古屋グランパスとの勝点差(現在3)を縮めることだろう。ACL優勝であれリーグ3位以内であれ、来年のACL出場権の獲得が最低限というのもあり、2008年のクライマックスに入ると、両チームにとって得るもの、失うもの、そしてバランスをとるところがたくさんある。

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歴史に残る、アジア舞台でのナショナルダービー

2008/10/08(水)

第1戦が8日に万博で行われる、ガンバ大阪対浦和レッズのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝は、簡単に言えば、日本クラブサッカー史上最も大きな試合である。ACLの前身、アジアクラブ選手権の2000年グループリーグでは、ジュビロ磐田は鹿島アントラーズを1対0で破った。しかし、今回はACL創設以来、初めてのJリーグ同士の対決となり、勝者は悲願のアジア制覇とFIFAクラブワールドカップ出場への挑戦権を獲得する。ACLは来年から拡大し、日本から4チームが参加することになるため、直接対決の機会が増え、さらなる成功も迎えるかもしれないが、今年はとにかく、Jリーグがアジアのトップリーグという立場を強調するチャンスである。

 

しかも、猛烈なライバル意識を燃やす、ガンバ大阪対浦和レッズが戦う「ナショナルダービー」ということで、普段よりも脚光を浴びるだろう。5月のリーグ戦ではピッチ・スタンドともに乱闘騒ぎに発展し、その再発は決して許されないが、この両チームには見事な激戦を見せる技術がある。2004年のJリーグファーストステージの最終節では、ガンバが浦和の2点リードを逆転し、3対2で勝利を収めたが、両者が未来の優勝候補というポテンシャルを示した。同年のセカンドステージをはじめ、今年までは鹿島と並び3強の2角として、毎年の優勝争いを最後まで戦ってきた。

 

浦和は昨年、アジア王者の座に輝き、万博開催のときでもスタジアムの半分近くが赤の海で埋め尽くされることからも分かるように、レッズはあらゆる面でガンバ大阪より真のビッグクラブということが確かである。しかし、ガンバも今年の開幕から初アジア制覇を目指しているので、Jリーグ王座の奪還が厳しくなった中、ACLの夢は簡単には諦めないだろう。4日、首位の鹿島との試合では、得点力不足の問題はまた明らかで勝ち切れなかったが、堅実な守備陣とプレーの内容は励みとなったはずである。それに対して、浦和は5日、16位だったジェフユナイテッド千葉に2対3で敗戦し、現在3試合勝利がないので、いざというときに少し暗雲が立ち込めてきたようである。

 

この準決勝はACLの歴史にとっても、最も大事な対戦の1つである。全北現代モータースはチャンピオンとなった2006年、韓国チーム同士の準決勝で蔚山現代ホランイを破ったが、その以前はアジアクラブ選手権の時代まで遡らないと同国対決の例がない。また、2006年のACLに加え、韓国勢はアジアクラブ選手権でも、19962002年という最後の7大会で5回も優勝を果たし、サウジアラビア勢とともに近年のアジアクラブサッカーをほぼ独占してきた。2006年の全北現代と蔚山現代もそれぞれ、ガンバ大阪と東京ヴェルディを破り日本勢をグループリーグで敗退させたこともある。しかし、浦和は昨年の優勝への道のりで、Kリーグの城南一和天馬を準決勝のPK戦で下したので、今回浦和とガンバの勝ったほうには、日本がアジアのサッカーを支配する時代を迎え入れる機会が与えられる。

 

資金が豊富な中近東勢やウズベキスタン勢(特に、元ブラジル代表のリバウドとジーコ監督を引き入れたFCブニョドコル)という脅威もこれから迫り来るだろうが、ガンバと浦和はこういった期待やテンションの中で、まずは8日の試合に集中しなければならない。6万人の大興奮で昨年の優勝を祝ったレッズは、ACLのレベルを上げたとアジアサッカー連盟からも絶賛されたが、アジアの注目が日本とこの試合に集まりながら、5月のような事件が一切なく、ハイレベルのプレーだけが見出しになることが何よりも大事なことである。両チームにとって、今こそがトップリーグの代表として実力を発揮する場である。

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まだまだ激化する上下の争い

2008/10/04(土)

1シーズン制というのは、競争が最も純粋で適正なフォーマットであるからこそ、Jリーグが2005年からこの制度に移行したときは大賛成だったが、南米式の2ステージ制がなくなることに対して、少し寂しい思いもあった。私が初めて日本で見た2003年シーズンには、セカンドステージのチャンピオンが決まったのは最終節のドラマチックなロスタイムに入ってからだったし、その翌年も、ガンバ大阪は調子が一時期上がったことで久し振りに優勝候補になった。短いステージから脱皮すると、2003年のような大混戦も珍しくなり、好調がなかなか続かないガンバのタイトルチャンスもなくなるとも思われた。

 

しかし、その思いはこの上なく間違っていた。2005年の優勝は結局5つどもえの争いとなり、しかも最終節の土壇場でガンバに決まった。浦和レッズは2006年の最終節、ガンバとの直接対決で初優勝を掴んだが、昨年は最下位の横浜FCにまさかの敗北を喫し、栄冠を鹿島アントラーズに奪い取られた。今年も何と、テンションが例年よりも上がっているところである。

 

現在の順位表を見ると、7位のガンバ大阪と8位の清水エスパルスの間には、勝ち点6の差が開いてきたが、ここには優勝争いと残留争いの境界線が引かれている。降格がほぼ決定的である最下位のコンサドーレ札幌を除けば、すべてのチームがこの上下の争いのどちらか、1つに巻き込まれている。すでに第28節まで来たところ、つい最近まで優勝候補とも言えた清水と現在9位の京都サンガすら、秋の連敗に沈むと残留が危うくなることもある。上位7チームには勝ち点6の差しかなく、8位~自動降格圏の17位の差もわずか勝ち点8しかない状態では、あらゆるチームにとって一つ一つの勝ち点が大切であり、順位表を左右しない試合がほとんどない。

 

3日のエル・ゴラッソの第1面では、16位で入替戦圏内のジェフユナイテッド千葉(勝ち点30)対4位の浦和レッズ(勝ち点47)の試合がトップ記事とされているが、それ以外にも、土曜日15時キックオフで、参加両チームの優勝チャンスに大きな影響を与える試合が2つ行われる。現在5位の川崎フロンターレ(勝ち点45)と3位の大分トリニータ(勝ち点47)はいずれも初タイトルを狙っているが、等々力での試合の勝ったほうは最後まで生き残る自信を得る一方、負けたほうは致命的な打撃を受けるかもしれない。また、万博で首位の鹿島(勝ち点49)と対戦するガンバ大阪(勝ち点43)も、現在の5連勝を伸ばさなくては、優勝の夢は絶対に叶わないだろう。

 

ガンバはバレーの離脱以来、10試合続けて勝ち星なしという低迷から、成績面ではようやく抜け出してきたが、プレーの内容から見ると、鹿島を破るにはまだまだ大幅なレベルアップが切実に求められている。水曜日の柏レイソル戦では、2点リードで相手が1人少ない状態で後半を迎えたにもかかわらず、ガンバらしい攻撃的なサッカーどころか、かなり守備的な姿勢を見せ、勝利は守れたが、勢いをつけるチャンスを逃してしまった。ガンバのリーグシーズンは、ディフェンディングチャンピオンから勝ち点3と勢いを奪えるかどうかにかかっている。

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