大分トリニータと清水エスパルスは1日、東京の国立競技場で2008年ヤマザキナビスコカップの決勝戦を戦うが、マンチェスター・ユナイテッドのような攻撃を好むイギリス人として、普段はトリニータを気に入るはずがない。リーグ首位との差はわずか2点で、タイトルを獲得する能力は明らかにあるが、その主な理由はJ1最少失点を誇る堅い守備である。
第30節まで、相手に23得点しか与えていないのに対して、攻撃面では降格が既に決定的なコンサドーレ札幌も下回る、31点しか取れていない。勝点51のうち、21は1対0での7勝利で得られた。ほかのチームと比較すると、同じ勝点51で並んでいる川崎フロンターレは、記録が得点54失点40であり、つまり、川崎の試合の総合得点数は大分のほぼ2倍である。2004年の横浜FマリノスはJリーグ史上の優勝チームのうち最も少ない、30試合で47点しか挙げなかったが、これでも今年のトリニータの1.5倍ほどである。
また、ガンバ大阪のサポーターとして、個人的にトリニータを嫌う理由もたくさんある。トリニータが2003年、J1に昇格して以来、ガンバは大分での成績が6戦全敗であり、私が万博で生観戦した4試合のうち、ガンバはトリニータに3回も敗れた。
しかし、私は何故、大分トリニータを嫌いでいられないかというと、やはりペリクレス・シャムスカ監督の偉業は尊敬するしかないからである。初めてのJリーグに関するライターの仕事をしていた2005年の夏、大分がまた負けて急落しているという記事を毎週毎週書いたものであり、結局4か月にもわたる13試合で勝ち星がなかったトリニータは17位に落ち、皇甫官監督が辞任した。しかし、ブラジルからこういった厳しい環境に入ってきたシャムスカ監督はすぐにチームに魔法をかけた。就任後の6試合では、トリニータは5勝1分けという見事な成績を残し、清水に5対0で楽勝し、優勝候補のガンバをアウェイで倒せるチームへと変貌した。第22節まで勝点19しか取れなかったトリニータは、最終節までの12試合でチャンピオン並みの勝点24(7勝3分け2敗)も獲得し、結局11位で終了した。この逆転はまるで「シャムスカ・マジック」だった。
11位というのは当時、大分にとって史上最高の成績だったが、フォワード・キーマンのマグノ・アウベスがクラブから離脱したにもかかわらず、シャムスカ監督は2006年にもトリニータをさらに成長させ、8位に導いた。昨年は14位に落下し、来日後初めての批判に直面したが、シャムスカ監督は自信も笑顔も失わず、むしろこの挑戦をもう一度マジックをかける機会に転換した。昨年の総失点60という問題を踏まえ、守備重視なスタイルに切り替えたが、システムや守備のメンバー(上本・森重・深谷のスリーバック、ホベルト・エジミウソンのダブルボランチ)を概ね変えずに、この失点率を半減することもできた。シャムスカ監督の戦術や忍耐のおかげで、大分トリニータはリーグ・ナビスコとい2つの戦線で初タイトルに近付いてきている。
しかし、目下の問題は最後までやり抜けられるか、ということである。このことはもちろん、優勝争いや決勝戦の経験が浅いチームにとって特に難しい点であり、大分は9月27日まで17戦無敗を記録して以来、1勝3敗で1得点しか挙げていない。ナビスコカップ決勝戦の相手、清水は反対に10月4日、FC東京とのアウェイ戦を5対1で楽勝したのを皮切りに、優勝候補の川崎とガンバも相次いで破り、現在絶好調である。そのサポーターは「大分との歴史の差を見せつけたい」と話し、エスパルスは確かに1996年のナビスコカップと2001年の天皇杯といった優勝歴があるが、1日は2002年のゼロックス・スーパーカップ以来、6年ぶりの国立になる。ナビスコカップの意義や将来性は未だに論議の対象かもしれないが、今年のような、お互い優勝に慣れていないチームが対決する決勝戦は、両チームのサポーターも中立のサッカーファンも共に楽しみにすることだろう。
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