将来性の鍵を握る女性サポーター
別に宣伝するつもりはないが、大阪市のキタの中心部、梅田で最近オープンしたブリティッシュパブは、かなり気に入っている。普段は、外国人がよく集まるようなお店に行くのは、ギネスなどを中ジョッキでなくパイントグラスで飲みたくてたまらないときぐらいしかないが、ガンバ大阪とのタイアップ協力の一環として、試合中継を店内のテレビで観戦できるのである。スタジアムに行けない試合はパブで見るという、イギリスのスポーツ文化が恋しかった私には、大変嬉しいことである。
先週のナビスコカップ準々決勝の第1戦、清水エスパルス対ガンバ大阪もそこで見たが、倉田秋が決定的なチャンスを逃したときなど、後半の雰囲気が盛り上がると、サポーターの叫び声が不思議と甲高いように思われた。そこで周りを見ると、お客さんの過半数、それに最も必死に応援していたのは、女性だった。やはり、イギリスと大いに異なる、日本人サッカーファンの性別分布は、こういった飲み処にも及ぶわけである。
イギリス人として日本のサッカー会場に行くと、応援団は主に男性から成るが、一般のサポーターに女性や子供が多いということは一目瞭然である。プレミアリーグは家族全員で行くには極めて高いというのもあるが、イングランドの2部~4部を運営するフットボール・リーグでも、「2008年サポーターサーベイ」の記入者のうち、女性は5分の1に過ぎなかった。それに対して、Jリーグが毎年行う「スタジアム観戦者調査」の結果によると、女性の比率は2000年から4割前後、つまり、イングランドの2倍ほどで推移している。このことは、サッカーがつい最近導入された、日本の独特なスポーツ文化における興味深い社会現象である。
この現象の背景に様々な要因があり、完全な分析をすると論文になってしまう(実は、私の卒業論文で取り上げたテーマの1つでもある)が、野球の文化が先に定着していたことが大きいだろう。もちろん、女の人も野球を見ないわけではないが、男性のサラリーマンが仕事の後に球場に行く習慣や傾向が数十年も続いてきたので、サッカーはこういった元々の野球ファンではなく、それ以外の社会層から多くの観客を引き付けたことは言うまでもない。倫理的な面から見ても、日本の企業に深く組み込まれている上下関係は、野球の球団や各試合にも明らかであるが、サッカーは上からの指示より選手自身の判断や独創力に依存する。こうしたポイントが女性や若者にアピールしたとも考えられる。
このような見方は、ガンバ大阪の女性サポーター割合が特に高いということに裏付けられている。2004年~2007年のJリーグスタジアム観戦者調査の結果から平均を算出すると、ガンバでの女性比率は47%で全国平均を大幅に上回り、2004年の単年結果など、男性を超える場合もある。大阪では野球の文化がもちろん非常に根強く、オリックス・バファローズと特に阪神タイガーズが人々の情熱をかき立てスポーツ紙の見出しを独占する背景で、男性は球場から離れられないのは当然だろう。ちなみに、ヴィッセル神戸での女性比率も4割前後であるが、ホームタウンが甲子園から離れた大阪南部であるセレッソ大阪では、3割代でリーグ平均をやや下回る。
ヴィッセル神戸とセレッソ大阪の女性サポーター数が、J2で過ごしたシーズンに大いに下がったことは、応援団の中心が男性という証かもしれないし、プレーより好きな選手が見たい人も確かに少なくない。しかし、いわゆる「人民のスポーツ」が依然として主に男性に愛されているイギリスとは異なり、日本人サッカーファンの構成はバランスがかなりとれており、非常に良いことに違いない。社会現象として、日本のサッカーはまだ初期段階にあるが、将来の成長に伴い、男女混合は大切なベースになるだろう。
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