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イメージが全て

2008/07/07(月)

日本で留学していた頃、少し落ち着いて大阪の生活に慣れてきたら、同級生と一緒に(ちゃんと学生らしく)梅田や難波で良く遊んだりした。たくさんの飲み会に参加した中で、ある日のパーティーはちょっと不思議なハプニングで、これまでずっと記憶に残ってきた。私のことに興味があると、ある同級生がその友達も呼んでいたが、可愛い女の子ではなく、シンガポール出身の男の人ということで、ずいぶん期待外れとなった。とにかく、この人は私と隣の椅子に座って、ニコニコ笑いながら言った。

「ベンさんは、オックスフォード大学ですね。あなた、すごい人間でしょう。」

初対面でこんなことを率直に言われて困っていた私は、会話で納得させるように頑張ったが、居心地があまりに悪くて、正直、早く別の相手と飲みたくなった。

 

今振り返ると、この人にはもちろん困らせるつもりがなかったが、確かに、オックスフォードという名前だけ言えば、人は何か反応する。極端に言うと、仕事の面接でも感動される場合もあれば、きっと偉そうな人と思われて別者扱いされてしまう場合もあるが、この印象はとにかく以前から抱いていたイメージから生まれる。

 

大学で日本学を勉強することにしたときも同様だった。かなり珍しい(=変な?)専門を選んだということで、きっと数学か言語学にすると思っていた先生を驚かせた上、回りの人にも、「おぅ、面白いことするね!」と言ってもらったことも、「漫画のオタクか」とちょっと笑われたこともあった。(多少、変わってはいるかもしれないが、日本の漫画を今でも1冊も読んだことがない…)やはり、日本に対しても、多くの人になんとなくのイメージがあるし、実際の体験というような根拠がなくても、こういったイメージからやや強い印象を作るというのは避けられない、人間の癖かもしれない。イングランドから離れて以来、私の国のサッカー代表チームについても、このような現象に気付いてきた。

 

フットボールの母国という歴史からか、マンチェスターユナイテッドやリバプールのプレミアリーグとチャンピオンズリーグでの活躍が世界中に中継されていることからか、若しくはその選手がセレブみたいな存在になっていることからか、イングランドと言えばやっぱりサッカー、というイメージが世界中にも強いような気がする。初めて万博でJリーグの試合を見たとき、「サッカーの王国から来たんや!」と喜んでくれたサポーターが何人かいた。2002年の日韓ワールドカップのとき、多くの日本人でもイングランドを応援してくれた映像をイギリスのテレビで見たし、三匹のライオンを身につけてゴッド・セイヴ・ザ・クイーンを(かなり訛ったアクセントで)非常に元気に歌っていた日本人の姿は一生忘れられない。

 

今回のユーロの予選でも、フジテレビの衛星チャンネルでは1節ごとに、数十試合のうち12試合しか放送されなかったのに、アピールがあるおかげでほとんどのイングランドの試合が見られた。結局、ご存じのようにクロアチアとロシアに敗れ、私の国の代表チームが予選で敗退してしまったが、サッカーが詳しい人にも大きな大会ぐらいしか見ない人にも、やっぱりイングランドが出場していないユーロを見てちょっと残念で違和感があると、最近よく言われている。歯に衣を着せずに正直にいうと、このイングランド代表チームはもう長い間低迷しており、見事なプレーを見せてくれたのはもうずいぶん以前になるが、本質を知らず、若しくは本質を問わず、その魅力的なイメージが依然として残っている。

 

しかし、問題となるのは、イングランド人でもそれを信じてしまうことである。2006年のワールドカップの直前、「昨日のテレビによるとイングランドも優勝候補みたいだね」と言ってくれた会社の人に対して、「当たり前やんけ!」と答えてしまった私も、確かに有罪だ。1試合勝っては最強、1試合負けては最低、というように極端に考えることは、イングランドのサポーターやタブロイド紙の馬鹿な癖ではある。しかし、最も気になることは、この数年のイングランドにきっと実力はあったのに、お金や憧れを浴びていた中、選手たち自身も実績を出す前にイメージを信じてしまったのではないか。

 

今年のユーロは久し振りに、イングランドに対する過大な期待もいつものPK戦の失望もなく、冷静に楽しめたので、見事な大会を見ながら少し考え直すこともできた。スペインみたいな実力やオランダみたいなスタイルはできなくても、少なくてもクロアチアやロシアのように良く頑張って、イングランドも私たちがまた誇りに思える、世界にまだ残っているイメージに値するチームになって欲しい。

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コメント

ベンさん、
こんにちは。私は韓国のKangです。
Timさんからベンさんのcolumnの情報を頂きまして面白く読んでいます。
日本語の実力がすごいですね。ベンさんの日本語のcoulmnを辞書を探しながら読んでいます。
今後も楽しく期待いたします。韓国へに訪問機会が在りましたら連絡お願い致します。

投稿: Richard, Kang | 2008年7月 8日 (火) 16時56分

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